ハナイキロク「ハトの豆鉄砲」

地球社会の世相万般をタテ、ヨコ、ナナメから取り上げます

2009-07

米国はなぜ広島の平和式に出ないのか

《ジャパンタイムズ時評 日本語版 0808》
                                        ハナイ  キロク

◆◆ことしも8月は原爆投下や終戦を記念して太平洋戦争にからむ話題や行事が新聞やテレビをにぎわした。その中で、わたしは6日広島で行われた恒例の平和記念式に注目した。この式に昨年より13カ国多い過去最多の55カ国の代表が参列し、主催者の市当局を喜ばせた。広島市は1998年から核保有国に平和式への案内状を出している。最も出席率の良いのはロシアで2000年から9年連続、中国は今年初めて顔を出した。ところが、米英仏の3カ国は1度も出ていない。原爆を投下した当事国の米国代表が原爆慰霊碑に花輪をささげてくれたら被爆者の遺族たちはどれだけ傷ついた心を癒されたことだろう。

◆◆シェーファー駐日米大使は広島へ行ったら、怒れる市民から袋叩きにされる、と思っているかもしれないが、そんな心配はご無用。原爆死没者慰霊碑の石室正面にはこういう言葉が刻まれている。「安らかに眠ってください。過ちは繰返しませぬから」。中島岳志著「パール判事」によると、東京裁判で日本無罪論を述べたパール判事は1952年この碑を訪れたさい、原爆の責任をあいまいにし、アメリカの顔色を伺う日本人の軽薄さに、憤りを露わにした、という。この碑文の作成にかかわった当時の広島市長浜井信三は「あの碑の前に立つ人々がだれであろうと、自分に関する限りはあやまちを繰返さない、という誓いと決意を固めることが将来の平和を築く基礎である」と、釈明のコメントを地元紙の中国新聞に寄せている。外国人には不可解かもしれないが、これが広島市民の代表的意見であることは間違いない。

◆◆最近、わたしは原爆による広島の惨状を日本以上に気にしていたのは米国ではないか、と思うようになった。その端緒は今月発刊された森重昭著「原爆で死んだ米兵秘史」である。広島市民の間には米兵捕虜が原爆で殺された、といううわさが広く流布していたが、米軍は1980年代まで捕虜の原爆死をかたくなに否定し続けた。著者は20年もこの問題を追い続け、広島で被爆死した米兵捕虜12人、長崎で被爆死したオランダ兵捕虜8人、英兵捕虜1人の氏名を確認。全員のリストを著書に掲載した。連合軍側は、日本占領後すぐに、被爆死した捕虜について調査したが、一切の資料を公表しなかった。著者が連絡して初めて原爆死を知った遺族もいた、という。史上最も残酷、非人道的な爆弾で自軍の兵士を見殺しにした、とあっては本国民の激しい反発を受ける、と恐れたのであろう。勝者、敗者を問わず戦争はむごいものだ、と思う。

◆◆米国が、広島、長崎への原爆投下を「米兵100万の命を救うため」として正当化を図ったのも、原爆に対する世界世論の憤りを抑えるためだった。
日本政府は敗戦国の立場から、戦後は敢えてこれに異を唱えることを避けてきた。米国は日本と平和条約や安保条約を結びながらも、日米関係に深く刺さった原爆というトゲを抜く努力をしなかった。昨年夏、久間章生防衛大臣が「原爆投下はしょうがない」と発言して辞任に追い込まれたのはまだ記憶に新しい。安倍親米政権といえども、国民の強い反発に直面して久間大臣をかばいきれなかった。このトゲを抜かない限り、日米の関係強化をどんなに推進しようとも、砂上の楼閣に過ぎない。

◆◆小沢民主党代表は久間防衛相辞任の日に行われた党首討論で、原爆投下について米国に謝罪を求めよ、と安倍首相に迫った。1年以内に行われると見られる衆議院選挙で民主党政権誕生の予想も出ているが、そうなれば、日米の対等な関係を求めて、日米安保条約、日米地位協定の見直しが課題になることも避けられまい。米政府が真に日米友好関係を深めたいと望むならば、直ちに原爆投下を謝罪することは困難としても、広島の平和記念式に臨み、原爆犠牲者の慰霊碑に花輪を献ずるぐらいはしてもいいのではないか。その意味で、来月、広島で開かれるG8下院議長会議に参加するペロシ米下院議長が原爆慰霊碑を訪れる初の米人現役政治家になるかどうか、広島市民は注目している。

◆◆日本は、世界唯一の原爆被害国として、核兵器廃絶を主導できる立場にあり、またそうすることが20万を超す原爆犠牲者の霊を慰める道であるはずだ。しかし、政府は米国と安保条約を結ぶことによって、中立性を放棄し、核兵器を持たないと言いながら、米国の核の傘に依存するという矛盾した防衛政策を取ってきた。このことは、日本政府が核軍縮を唱道する道徳的権威を損なっている。広島、長崎両市は外交権こそ持たないが、他に例のない原爆受難都市として、世界に人類の平和を呼びかけるモラルリーダーの資格がある。

◆◆世界遺産となった原爆ドームや内外の人が列席する平和記念式はそのための武器と言える。腰の据わらない日本政府に代わって、両市が核廃絶に向けて積極的な役割を果たすよう期待する。
[この時評は2008年8月25日付ジャパンタイムズ オピニオン欄にNonnuclear high groundの題で掲載されています]

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プロフィール

Author:ハナイ キロク
###履歴
新聞記者39年
国際選挙監視6回
海外日語講師1年
大学教師3年
  +++
フルブライト奨学金研究員1年
フルブライト奨学金調査取材2ヶ月
豪州政府奨励金 調査取材1ヶ月
###現在
ジャーナリスト
ジャパンタイムズ・オピニオン欄に寄稿中
(1997年6月から)
###著書
「アメリカ大学事情」(第10回大宅壮一ノンフィクション賞候補)
「アメリカ禁煙革命」
「生きがい求めて地雷の国へ」

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