ハナイキロク「ハトの豆鉄砲」

地球社会の世相万般をタテ、ヨコ、ナナメから取り上げます

2009-11

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米国はなぜ靖国問題に沈黙するのか

《ジャパンタイムズ 時評 日本語版 0809》
                                       ハナイ  キロク
◆先月15日の日本の新聞に、100歳の長寿を全うしたアメリカ人の死を伝えるワシントンポストの記事が転載された。William Kenneth Bunce,終戦後、東京のGHQで宗教課長を務め、国と神道とのつながりを禁じ、靖国神社を一宗教法人として存続させることとした45年の神道指令に関与した、との17行の記事だった。靖国神社はいまもその去就をめぐって果てしなく論議が続いている。

◆米国は、靖国神社を日本軍国主義の精神的支柱とみなし、軍の解体と並び、日本人の心の非軍事化が必要だ、として靖国神社の改革に真剣に取り組んだ。占領直後のGHQには、「靖国を焼却すべし」との強硬論もあったという。しかし、「GHQは軍国主義、超国家主義の除去と信教の自由の確立を両立させるというジレンマを抱え続けた」(NHK取材班著“靖国”)結果、宗教法人として再生させることになった。当時、靖国処分の中心的役割をになったバンス氏らの苦悩が、いま形を変えて日本政府と靖国神社にまつわりついている。

◆靖国神社が東条首相ら東京裁判のA級戦犯を合祀したこと、小泉首相が5年余の在任中毎年靖国に参拝したことが中国と韓国の怒りを誘発した。その打開策として、A級戦犯の分祀、新国立追悼施設の建設、靖国神社の非宗教法人化などの議論が持ち上がり、政府はいまだに結論を出せないでいる。

◆安倍、福田首相は両国との摩擦を避けるため、靖国参拝を自粛、ここ2年ほどは平穏な状況が続いている。だが、中国人Li Ying監督による映画「靖国」について、昨年12月週間新潮が、反日映画なのに文科省外郭団体から助成金750万円を受けている、と批判したことから、国内の靖国支持派が反発した。自民党議員が試写会の開催を求めたり、国会で助成金の審査過程を追求した。靖国神社も一部映像の削除を求めた。この騒ぎに東京、大阪などの映画館が相次いで上映を中止した。わたしが見た感じでは、靖国に群がる反対、賛成両派の動きをナレーションを入れず、事実をして語らしめる手法で描いており、客観的な作品である。その中で、一人のアメリカ人が「小泉総理を支持する」と書いた紙と星条旗を持って立っているシーンに意表を衝かれた。その後、映画「靖国」に対する批判は下火になり、映画の公式HPによると、9月10日現在「靖国」の上映もしくは上映予定の映画館は59館。当初予定の3倍近い。

◆だが、首相公式参拝をめぐる憲法の政教分離原則違反の問題やA級戦犯合祀がもたらした外交問題には依然決着がついていない。
8月15日の政府主催全国戦没者追悼式に臨んだ河野洋平衆議院議長は追悼の辞で「政府が特定の宗教によらない、すべての人が思いを一にして追悼できる追悼施設の設置について真剣に検討を」と政府の尻を叩いた。無宗教の国立追悼施設建設は小泉内閣時代、当時の福田官房長官の私的懇談会も02年末に提言したが、政府は具体化に手をつけないまま今日に至った。

◆一方、福田首相の予期せぬ退陣表明で、次期自民党総裁の最有力候補に麻生太郎氏が浮上したことから、靖国問題の解決策が脚光を浴びる可能性が出てきた。麻生氏は外務大臣を務めていた06年8月、朝日新聞に「靖国問題は非宗教法人化こそ解決の道」と題する見解を投稿した。これによると、靖国神社は任意解散し、特別立法によって「国立追悼施設靖国社」とする。慰霊対象者については設置法を論じる国会審議で合意を得る、としている。 有力政治家が明確な靖国処理構想を提示したのは与野党を問わず、これが初めてだ。麻生氏の元派閥ボスだった河野衆議院議長が、戦没者追悼式の式辞で追悼施設新設を促したのも、麻生氏と気脈を通じたもののように思える。麻生氏が年内にもありうる総選挙の試練を乗り越えて、自説を具体化する機会を与えられるか、注目したい。

◆それにしても、GHQの最重要政策と目される神道指令のアフタケアに米国が熱心でないのが不思議である。
靖国神社に付設する遊就館(軍事博物館)は終戦と同時に廃止、閉館となったが、1961年に再開、1986年全面再開された。館内に流れる勇ましい軍艦マーチを聞き、大東亜戦争肯定の展示を見たらバンス氏はさぞ驚いたろう。境内には東京裁判でただ一人、A級戦犯全員の無罪を主張したインド人判事Radha binod Pal 博士の顕彰碑が立っている。靖国神社は明らかに連合国が意図した方向とは逆に向かっている。中韓両国は首相が靖国に参拝するたびに、過去の戦争を美化するものとして、激しく攻撃するが、太平洋戦争中から、靖国廃止まで考えた、という米国はなぜか黙っているのが理解できない。米国は日本の軍国主義復活を許す気になったのだろうか。
[この時評は2008年9月22日付ジャパンタイムズのオピニオン欄にTHE ROAD TO YASUKUNI’S
SURVIVAL の題で掲載されています]

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Author:ハナイ キロク
###履歴
新聞記者39年
国際選挙監視6回
海外日語講師1年
大学教師3年
  +++
フルブライト奨学金研究員1年
フルブライト奨学金調査取材2ヶ月
豪州政府奨励金 調査取材1ヶ月
###現在
ジャーナリスト
ジャパンタイムズ・オピニオン欄に寄稿中
(1997年6月から)
###著書
「アメリカ大学事情」(第10回大宅壮一ノンフィクション賞候補)
「アメリカ禁煙革命」
「生きがい求めて地雷の国へ」

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